アケビの話

今年も山にあけびのなる季節になった。

アケビ花言葉は「唯一の恋」、「才能」
唯一の恋かどうかははっきり言えなけれど、アケビのおかげで思い出ができた。

大好きだった先生は、戦中の北朝鮮でお生まれになって、軍医のお父様のお仕事の関係で朝鮮半島やら満州で幼少を過ごされた。
先生はその当時の話しを時々してくださっていた。話を聞いた私が想像する満州は、戦時中を描いたテレビドラマの風景の域を出ないけれど、先生は子供のころの楽しかったこと、悲しかったことをお話になって、私はその話でテレビドラマを見るように想像していた。



ある年の秋、私が何気に撮影した野生のアケビの写真を携帯メールに添付したところ先生はとても喜んでくださった。
「私の憧れの果物がアケビなのです。ずっとアケビを手にしたいと思っています」と、とても感激されていた。



先生は戦前を満州やらで過ごしていたのだし、日本に引き揚げてきた当時もまだ日本には自然がたくさんあると思うのだが、アケビに触れた事はなかったという。
高校生のころから園芸がお好きだった先生は、ご実家にアケビを植えようとしてお母様に大反対され、ご結婚されてからご自宅にアケビの苗を植えたいと奥様に相談したら、やはり猛反対されて断念したというエピソードを話してくれた。
「女性はなぜアケビを嫌うんでしょうね」と、不思議がっておられた。
先生のお母様も奥様もアケビを嫌っていたのではないのでしょう。
ただ、アケビは蔓が伸びてしまって他の木やら家に巻きついては大変と
心配したのかもしれない。



アケビの話をしてから数日。先生はデパートでアケビに出会った。
感激のあまり携帯電話で写真を撮ってくださった。
野生のアケビなんかよりずっと見栄えのいい紫の実がびっしり詰まったあけ美の写真はとても美味しそうだった。


「どうやって食べたらいいと思います?」と先生は嬉しそうにお尋ねになる。
「せっかくです、なにもしないでそのまま味わってください」と答えたところ、しばらくして、
「私の長年の夢がかないました。ありがとうございます。」とお礼を言われた。


その後、先生はアケビの皮までソテーして田楽風にして召しあがったそうだ。